樟脳

ウィキペディアより

 

樟脳(しょうのう)は、分子式C10H16Oで表される二環性モノテルペンケトンの一種である。カンフルあるいはカンファー: kamfer: Kampfer: camphor: camphre)と呼ばれることもある。

性質と存在

樟脳は融点 180°C沸点 208°Cの白色半透明のロウ状の昇華結晶であり、強く刺すような樹脂系の香りを持つ。クスノキ精油の主成分であり、他にも各種の精油から見出されている。クスノキアジア、特にボルネオに産することから、樟脳の別名の起源となっている。

製造

クスノキの葉や枝などのチップを水蒸気蒸留すると結晶として得ることができる[注釈 1]クスノキの中に含まれている樟脳はd体である。製造工程としては、クスノキを切削機で薄い木片に砕いて大釜に入れ、木の棒などで叩いて均等に詰めたのち、高温で蒸して成分を水蒸気として抽出し、それをゆっくり冷却して結晶化させる。冷却器の中の水の表面に浮いた白い結晶を網ですくい集め、乾燥後、袋詰めなどをして商品とする。この天然樟脳の製造所は、2006年時点では江戸時代から続く内野樟脳(福岡県みやま市)の1軒のみだったが[3][4]、その後の技術指導などにより、2014年時点で全国で4軒を数える[5]

用途

血行促進作用や鎮痛作用、消炎作用、鎮痒作用、清涼感をあたえる作用などがあるために、主にかゆみどめ、リップクリーム、湿布薬など外用医薬品の成分として使用されている。鹿児島県では、100年以上続く家庭の常備薬として「白紅」(丸一製薬)が広く知られている[6]

かつては強心剤としても使用されていたが、今日ではその用途にはほとんど用いられなくなった(現在ではアドレナリン作動薬が工業的に大量生産できるため、それらが用いられる)。しかし現在でも、「駄目になりかけた物事を復活させるために使用される即効性のある手段」を比喩的に"カンフル剤"と呼ぶことがある[7]

19世紀初頭では樟脳とアヘンを混ぜて子供の咳止めとして用いることもあったが、多くの子供はよりひどい状態になり、この処方をするくらいなら放っておいたほうがましだと評価されていた。その他にも香料の成分としても使用されている。

また人形衣服防虫剤や、ゴキブリムカデネズミなどの害虫害獣忌避剤防腐剤花火の添加剤としても使用されている。

樟脳は皮膚から容易に吸収され、そのときにメントールと同じような清涼感をもたらし、わずかに局部麻酔のような働きがある。

しかし、飲み込んだ場合には有毒であり、発作・精神錯乱・炎症および神経筋肉の障害の原因になりうる。